出口のない海 / 松尾しより
「出口のない海」
原作:横山秀夫
漫画:松尾しより
♪完結済・全1巻
♪ジャンル:少女漫画
♪キーワード:切ない、悲恋、戦争、特攻隊
*あらすじ*
人間魚雷「回天(かいてん)」。それは、発射と同時に“死”を約束する、「最後の特攻兵器」である――。
悲劇的なる太平洋戦争末期、それでもあざやかに燃える“戦時の青春”を描く、感動ストーリー!!
甲子園優勝投手でありながら、大学野球をあきらめた悲運の青年【並木浩二(なみき・こうじ)】。恋人【美奈子(みなこ)】との“果てなき想い”を信じつつ、それでも「回天」搭乗を志願した理由とは……!?
*レビュー*
横山秀夫さんの小説が原作で、映画化もされている有名な作品です。
特攻隊というと飛行機を思い浮かべがちですが、この作品で取り上げるのは"人間魚雷"といわれる「回天」
実は個人的に原作小説にもとても思い出がありまして…
高校生のときに本屋を物色していて、何となくタイトルが気になって手に取ったのがこの「出口のない海」でした。
日本史は好きだけど昭和史に疎い私は、零戦は知っていたけれど回天は知らず…この作品でもうひとつの特攻があったことを知りました。
「出口のない海」の意味を悟ったときは息が苦しくなるような衝撃を受けたのを覚えています。
という訳で、原作も心に残るもので好きな作品だったのですが、松尾先生がコミカライズされているとは知りませんでした…!
原作もオススメなのですが、活字が苦手…という方にはこちらの漫画版を是非読んでいただきたいですね。
やはりページ数の関係等もあり、原作に比べると内容の薄いものにはなっていますが、
それでも伝わるものはあります。
何故浩二が「回天」に乗ったのか…
気持ちの移り変わりや表情、
松尾先生の絵柄はとても綺麗で涙を誘います。
コミカライズされたからこそ、是非注目して欲しいところです。
個人的に好きなシーンとしては、美奈子に宛てた最後の手紙。
「一年たったら俺を忘れてください」
「百才まで生きてください」
美奈子の写真の裏に、酸素がなくて苦しい中、震える字で書かれているのが……辛すぎて涙。
青春、希望、絶望、葛藤、決意…
色んな感情が混雑する若者の心情。
狭い魚雷の中に一人で入る、その閉塞感。
死ぬ覚悟を決めて息苦しいそこに入ったのに、故障により出航できなかった気持ちたるや、どのようなものだったのか…とても私には想像できるものではありません。
結局、浩二は出撃して死ぬのではなく、訓練中に行方不明になり、回天の中で酸欠により命を落とすわけですが、
そこがこの作品の最も胸を打つところであります。
出撃して散る…それもある意味での美学で、悲しいし胸を打つのですが、
逃げ道もない「出口のない海」の中で、このような形の残酷な死もあったということ。
そして、彼は敵艦を見事に倒すヒーローでもなんでもなく、普通の、夢を追いかける青年だったということ。
それがよく現れています。
正直、漫画版はどんなもんか…と思っていましたが、一番伝えたいことは伝わってくるので、さすがは松尾先生というところです。
回天の中の閉塞感は、漫画だとよりリアルに伝わってきますね。
漫画版を読んで気になった方には是非原作もオススメしたいです。