積乱雲 / 里中満智子
「積乱雲」
♪作者:里中満智子
♪完結済み・全2巻
♪キーワード:戦争、歴史、感動、泣ける、純愛
*あらすじ*
昭和20年6月――敗戦の色濃くなりつつある第2次大戦中の日本。
鹿児島県の鹿屋にある海軍航空隊の基地。特攻隊員に志願した若者たちが集まるこの地に、恋人を送り出した女たちは最後に一目会いたいとやって来る。
足の悪い令嬢・【知絵子】は兄嫁の弟・圭一郎と出会い生きる活力を得る。
家族のために女優という仕事を懸命にこなしてきた【笛子】はシナリオを書いていた貢の優しさに安らぎを覚える。
予科練の教師を兄に持つ【美代子】は兄の教え子の一人、周一に想いを寄せるが……。それぞれの想いをこめて見送る女と、想いを振りきり飛び立ってゆく男たちの物語です。
*レビュー(ネタバレあり)*
太平洋戦争末期、特攻隊として飛び立っていった男と、見送った女、
3組の男女の恋愛と生き方を描いた作品です。
やはり特攻隊が題材ですから、苦しくなる場面も沢山あります。
ですが、それ以上にそれぞれの男女の愛し方、生き方が胸を打ち、考えさせられる作品です。
生きては帰ってこられない出撃に、男たちはどんなことを考えて旅立ったのか…
そして女はどんな思いで見送ったのか…
この作品は「第1部/その日まで」と「第2部/その日から」に別れておりまして、
第1部は男女の恋模様から男が特攻に出撃するまでを描き、
第2部は男を見送った後の女達が戦後をどう生きたか、というのが描かれています。
この構成がとても良かった。
特攻の悲しさを描くだけではなく、当然その後もあっただろう残されたものの生活を描くことで、その中に生活の息吹を感じられ、よりリアルに感じられますし、感情移入もしやすいと感じました。
里中先生は「天上の虹」や「長屋王残照記」等が有名で、その辺りの古代ものはいくつも拝読させていただいていますが、太平洋戦争ものは初めて読みました。
歴史ものを沢山書いていらっしゃるだけあって、時代背景等はしっかり把握されて書いてらっしゃいますし、やはりさすがの画力と構成で、ずっと釘付けになって読んでいました。
戦中・戦後に、このような普通の生活や恋愛があったということを、改めて実感できる作品です。
絵柄がとても美麗ですが、少し古いので、若い方の中には受け付けない方もいらっしゃるかもしれませんが、とても感じるところの多い作品ですので、是非沢山の方に読んでいただきたいです。
名シーンといえば、
なんといっても第1部第1章の圭一郎さんの遺書でしょう!
丸々1ページ見開きで手書きの遺書…。もう生々しいし辛いしで涙がぶわーっと溢れました。
こんなシーンを作り出す里中先生のセンスに脱帽です。
あとは冒頭ページ
「愛も 夢も 希望も 情熱もすべて
自己を消滅させることで
燃焼させるすべしかなかった
名もない多くの人にこの作品をささげる」
このメッセージに胸を打たれました。自己を消滅させることでしか燃焼させるすべをもたなかった…ってすごい表現。でも的確なんですよね。
内容としては、3つの物語がある訳ですが、
それらがすべて交錯しているのが良いですね。
1章の知絵子から読み初めて、笛子、美代子…と物語は違いますが、3人とも同じ日同じ場所で男を見送ることになる。
その日の場面を多角的にみられるので、より一層胸が苦しくなります。
ここまでも散々書きましたが、より沢山の方に読んでいただきたい作品です。